奥山由之写真展「As the Call, So the Echo」が、Gallery 916で開催される。

紹介文
本展では、写真家として歩みだして6年となる奥山由之が、ある時から止まってしまった"写真の持つ気配"をもう一度再生させるきっかけとなった、ある村の日常 ─ 命が宿り、球体を描くようにして人の輪が創り上げられていく様子 ─ を具象と抽象で表現した最新作約70点を、四章の構成によって展覧いたします。

Gallery 916 smallでは映像作品も上映。本展に併せて赤々舎より出版する写真集『As the Call, So the Echo』を、Gallery 916にて先行販売する。

ステートメント
As the Call, So the Echo
いつだったか、たまたま開いた本で、気になるその字面に目が留まった。
「呼びかけたから、こだまが返ってきたんだ」。 直訳するとそんな意味合いだろうか。
小さく声に出してみれば、語調や響きがまた良くて、悩んでいたタイトルはこの言葉にしようと思った。
言葉であれ態度であれ、人から発せられたあらゆる要素は、壁に投げたボールのようにして、いつか必ず自分に返ってくる。良いことも悪いことも。
そう実感させられる出来事が、この数年は多くて、まるで球体を描くように形成されていく周囲の環境は、自ら発している"何か"によって形が決められているのではないか、と思える。人は、言葉のやり取りや、肉体的な触れ合いの他に、"何か"による不思議な交信をしているのだろう。オーラやムード、空気、といった類の事柄ともまた少し違った"何か"。どうにも言い当てられず、ひとまず"何か"という広すぎる意味の単語に分類せざるを得ない感覚的な物事。
写真には、その"何か"がよく見つかる。
じっくりと目を凝らし、耳を澄ませて、しばらく眺める。
色ではない色を見つけて、音にならない音を聞く。
すると、まさにこだまのようにして、聞こえる瞬間がある。
木の葉が揺れる音や、猫の鳴き声、ギターを弾く音や、子供のはしゃぐ声、そういった音波をもつものではなくて。そう、シャッターを押している時には絶対に聞こえない音。プリントを見返して初めて聞こえる音。うねり、そして揺らぐ、波動のようなその気配を頼りに、写真を並べていく。
数年前『BACON ICE CREAM』という写真集を作った後、急に音が聞こえなくなった。目にするもの全てがグレーに見えた。
耳までは届いているのに、脳に届いていないような音がした。視覚的には見えているはずなのに、精神的に色が分からなくなった。
あの初めての感覚は、僕に「色とも音ともとれる気配」の存在を教え、つまりは写真において、色と音が同意義であることを知った。
久しぶりにカメラを手にして、東京から離れた地で撮った写真には、優しさが溢れ、自分を見つめることの内向性から解き放たれているように思えた。目の前にいる人々から視線を逸らさずに、照れもなく正面から向き合っている感覚があった。
僕は嬉しかった。
当たり前の日常から見出した"何か"が、極めて優しさに近いものであったこと、そして前向きな喜びと共に、これらの写真がもつ気配に気付けたことが。
四つの章から成るこの作品は、友人である哲朗さん一家が住む長野の村と、彼が作り上げたプールでの出来事、そして吉祥寺キチムでの小さな舞台を記録した写真で構成されている。僕が初めて哲朗さんに会ったとき、彼は大雨でぐちゃぐちゃになった沼のような道を裸足で歩いてきては、笑顔で挨拶をしてくれた。
あの時に感じた彼の気配は、他の誰にもみたことのない澄んだ色をしていて、やはり周囲にはその音に引き寄せられるようにして集まる人々がいた。僕にはそんな環境が、とても柔らかな球体に見えた。ある時から止まってしまった写真の気配をもう一度再生してくれたのは、紛れもなく彼らの生活だと思う。
あの村のみんなは元気だろうか。
これから何を呼応させ、どんな球体を作り上げるのだろう。
奥山由之
 
トークセッション&ブックサイニング
11月25日 16:00〜17:30 奥山由之 × 上田義彦
12月10日 15:00〜16:30 奥山由之 × 飯沢耕太郎(写真評論家)
 

展示会風景


 

展示会情報

Gallery 916
http://Gallery916.com

ギャラリー名
Gallery 916
住所
東京都港区海岸1-14-24 鈴江倉庫第3ビル 6F
開館時間
平日11:00〜20:00 土・日・祝日 11:00〜18:30  月休(祝日を除く)
入場料:一般 800円、学生・シニア 500円、高校生 300円、中学生以下無料
*半券をお持ちの方には割引有り
アクセス
ゆりかもめ竹芝駅 徒歩2分
JR 山手線・浜松町駅(北口)徒歩5分2