ヨン・アーウィン・シュタヘリ写真展「SAND&SALT」が、ギャラリー冬青で開催される。

ステートメント
2006年、アルザスにあった最後のカリ鉱山が閉鎖された。100年以上の永きに亘り採掘されてきたカリ鉱山である。その採掘過程は地下水とライン川に公害をもたらし、地域全体の地下水は飲用に適さないほどに汚染されていた。

カリは主に農業用肥料として採掘され、採掘により発生する砂と塩の廃棄物は周囲に積まれていく。ヴィッテルスハイム鉱山には廃棄物の巨大な堆積が出来上がっていた。そして年月の経過とともに、堆積中の塩を雨が洗い流していった。地下水が汚染され、ライン川の塩分濃度が(海水よりも)高くなってしまったのはこのためと言われている。

私はこの鉱山を偶然見つけ、廃棄物の山が形成される過程が自然の山の侵食などによく似ている点に興味を覚えた。堆積した山から塩を除去するための手段である水の高圧噴射も自然の雨を彷彿とさせた。けれども柔らかい砂と塩の堆積は山岳などの自然の景観より遥かに早く侵食する。形成された崖、柱、岩の顔面、石のアーチなどが崩れ落ちてしまう前にそれらを見ることができた私は幸運であった。自然の中でこのような現象をじっくりと観察出来る機会は滅多にあるものではない。周囲に植物もビルも全く無いため、山々の形成、水の筋道、氾濫原といった光景にあたかも先史時代の光景を見ているような錯覚さえおぼえた。堆積注のサイズを示唆するものは作品中に無いが、高さは実に10メートルにも達するのである。

これらの写真から18世紀の古典絵画、キャスパー・ウルフ、カスパー・デイヴィッド・フリードリヒ、ウィリアム・ターナーなどの作品を想起する人もいるかもしれない。当時、アルプス山脈は未だ未知の領域であり、人はロマンティックなアイデアを表現する手段として神秘的な山を用いたものである。しかし時は流れた。今や我々は山に冷たい視線を向けている。昨今、山と言えばむしろ経済的、生態系的、技術的な課題が注目される。

モノクロ作品による本シリーズは、永く失われていた記憶を我々に思い起こさせてくれるであろう。しかし、本作品の背景について我々が知ることは大切である。これらは20世紀のカリ鉱山の姿なのである。

Jon Erwin Staeheli/ヨン・アーウィン・シュタヘリ
1955年にスイス・バーゼルに生まれる。1974年から1977年にかけ、バーゼルにてアートを学ぶ。初期は絵画を主とし、その後、写真を専攻する。1980年から1994年の間、土木技師として、道路工事、コンクリート及び鉄鋼構造、排水処理や上水道などの計画や施工監理に従事する。1995年より写真家として精力的に活動し、自身の暗室にてアナログ写真作品の制作を行っている。

展示会風景

展示会情報

ギャラリー冬青
http://www.tosei-sha.jp

ギャラリー名
ギャラリー冬青
住所
東京都中野区中央5-18-20
開館時間
11:00~19:00(火・木・金・土)
日曜・月曜・祝日休館
アクセス
JR中央線・総武線・地下鉄東西線中野駅南口より徒歩12分
地下鉄丸ノ内線新中野駅1番出口より徒歩6分