■ 座談会メンバー
Photographer:佐藤博信
Hair:TETSU(SEKIKAWA OFFICE)
Make:MINA(SIGNO)
Illustrator:牧 かほり
進行:坂田大作(SHOOTING編集部)

まずこういった作品撮りをしようと思ったきっかけから教えてください。

▲ヘアメイク中のTETSUさんとMINAさん。モデルと絵を見ながら、現場でヘアメイクを詰めていった。

佐藤:最初は、ある撮影現場の合間に、TETSUさんと話をしたのがきっかけです。

TETSU:そうですね。佐藤さんやMINAさんと一緒の現場で仕事をしていて、「最近馬のたてがみで作品を作っている」という話をしていたんです。その中で、何となくノリで「日本髪のビューティとかやりたいよね」みたいな話が出て、「それ、面白そうですよね!」って、半分冗談っぽく話していたんです。それで牧さんも紹介してもらって、「じゃあ、やろう!」と。

佐藤:そういう流れでしたね。

広告でも雑誌でも日本髪を作る仕事って、ほとんどないですよね。

▲牧さんが描いたイラストのサイズは 1300mm × 1300mm。位置を移動させ、モデルとのベストなバランスを探りながら撮影。

佐藤:そうなんです。ましてやそれでビューティの撮影なんて、まずないです。そこで新しい表現を試してみたかった。僕はもともと黒の世界観とか、和髪の黒とかが好きだったんです。そこでかほりちゃんの絵が「パッ」と浮かんで、それをミックスさせたら面白い作品が生まれるんじゃないかと。

牧 :「何か一緒にやれればいいね」という話は以前からしていました。
仕事では、こういうテイストの絵は描かないので新鮮でした。普段は最初に手で描いて、それをスキャンしてデジタル仕上げ、みたいな感じなんですね。でもお話頂いた時に「人物の背景だったらすごく大きく描かなきゃ」という意識がありました。
まずうちの事務所のエレベーターで運べる最大のパネルを作ってもらって、その大きさで水張りして描いています。こういう機会でもないと、こんな大きな絵は描かないので、それが楽しかったですね。

最初はこんなダイナミックな感じにする気はなかったんですけど(笑)、大きいとキャンバスと格闘する感じになっちゃう。みんなの意見を含めて「和に転びすぎなければいいなあ」というのもあって、ポップな色を使ってみたり、形を切ってマスキングしたり、少しコンテンポラリーな仕上がりをイメージしました。

佐藤:かほりちゃんのアトリエが一杯になってたもんね(笑)。

牧:一杯になりましたね。あとベランダも。部屋を出る時に言われそうなくらい汚れがついて(笑)。

絵柄は抽象的なテイストです。

牧:そうですね。花や蝶とかも考えてはいたんですけど、何枚も描けないので、たぶん最初に「シュワ〜」ってやったのがよかったから、その流れでいきました(笑)。でもそれがどう作用するのか、モデルと組み合わせてみないとわからない事がたくさんあって、勉強になりました。

佐藤:撮影現場でも加筆していたよね。

牧:そうですね。

TETSU:髪の上に伸びていく線が利いているだよね〜。あとピンクのお花をつけたようなテンションもいい。

佐藤:これ、移動していくんだよね(笑)。

牧:スプレー糊で貼っていたので、効果的な所に動かせましたね。

この絵の世界観に対して、髪やメイクをどのようにしようと思われたのですか。

TETSU:何にも決まってないです(笑)。

MINA:現場主義で(笑)。

TETSU:モデルの顔によってもシルエットが変わってくるし、僕は今回モデルをしてくれたjunちゃんとは初対面だったので、彼女と絵から受けるインスピレーションの流れで髪を作っていきました。

MINA:私はさっきみんなが言っていたように、あまり和に転び過ぎないようなテイストでメイクを考えていました。和髪のビューティだけれども、メイクはポップさを感じられたらいいなあと思っていたので、ラインアート的な、60年代っぽくまつ毛を描いてみたり、目を大きく強調する日本のマンガタッチからからインスピレーションを受けたような作り方をしました。
あと、かほりさんの絵を見て、ネオン、蛍光色とか「和」とは真逆な色を持ってきたかったんですよね。

TETSU:モデルが日本人だし、黒髪も日本的なものなので、あまりクラシックに振るとベタな「和の世界」になっちゃう。

MINA:モデルにとっては裸ですけど、このスタイルでオートクチュールのドレスを着ても似合うような、そんなイメージです。

TETSU:そうだね。

MINA:「着物じゃなくてもいい」みたいな。

牧:モデルさんが変わっていくのを見ていて、私も現場で続きをどんどん描きたくなりました。

作品は「人物」と「絵」が対になっています。

牧:このアイデアもいいですね。

TETSU:後から写真を見直していく中で、人物と絵の組合せは自然に決まっていきました。

牧:迷わないんですか?

TETSU:いいのはたくさんあっても、「極上の組合せ」って言うんですか。大吟醸みたいに上澄みだけを使って後は捨てちゃう。贅沢な選び方(笑)。

牧:なるほど〜(笑)。潔いですね。

TETSU:そこで妥協するくらいなら、また作ればいいじゃない。

佐藤:対比することによって、モダンさを引き立たせたかった、というのはありますね。かほりちゃんの絵は色があるので、和髪モデルと対比することでお互いに活きてくると思いました。

牧:ちなみに縦で繋げたらどうなんだろう。

TETSU:そういうのもいいよね。

牧:トランプっぽいと言うか...。

TETSU:花札的な感じ。黒枠だしね。

佐藤:そういう組み合わせも、筆の流れが龍のように見えて面白いかも。

絵は複写されたんですよね。

佐藤:撮影しました。でもそのままのタッチを活かすというよりは、少し裏切りたかったので、レタッチでコントラストをつけて「バキッ」としてみたんです。
そうすると、基本的には黒く締まりますが、その中で残るグレー部分の「滲み」というものに、みんながどう反応するのか興味がありました。

牧:私は黒が黒に出ることは好きだし、このトーンは見ていて気持ちいいです。

唇のメイクは、ミッキーやクローバーも連想させます。

MINA:ディズニーというより、不思議の国のアリス的な(笑)。西洋のおとぎ話と日本昔話がフュージョンしたみたいなイメージです。

TETSU:こういう作品制作や提案は、今後もやっていきたいよね。

佐藤:僕も続けたいと思っています。

作品撮りをすること、それを継続することは大事ですよね。

▲撮影中の佐藤さん。ライトはオパ1灯。カメラ:Phase one 645DF+IQ180 レンズ:80mm LS f/2.8、120mmHM f/5.6

MINA:このシリーズは、仕事ではあり得ないようなテーマ性と、色々な要素が組み合わさっていると思うんです。普段の仕事でイラストレーターの方と会うこともなかなかないですし。しかも日本髪がテーマのビューティって、まずないですよね。だからこそやっていきたい。
海外の雑誌を見ていると、向こうの人達の方が日本をモダンに見せる事が上手いんです。でも日本はやる場が少ない。もっと日本人が自分達の文化やビューティをテーマに発信していかなくてはいけないと思います。

TETSU:意識的には「世界に発信する」くらいの勢いでやっているからね。どこの国のエディターに見せてもカッコイイと言われる自信もあります。だからもっとこのシリーズで作品を作っていきたいよね。

展覧会もやった方がいいですよ。

佐藤:その時は、写真集とセットで坂田さんにプロデュースをお願いします(笑)。
  • ▲座談会メンバー。左からTETSUさん、佐藤さん、MINAさん、牧さん。